電車だってスタジアムと同じなんだよ。


今朝、通勤のため電車に乗っていた。



船橋から総武快速線で品川へ向かっている。



今日は遅刻気味だったから、品川駅で降りたときに階段に近い場所になるように



真ん中あたりの車両に乗ったんだ。



普段は後ろのほうの車両だから、真ん中の車両は混雑している。



スタジアムで言うとゴール裏の自由席とうところ。



何事もなく着々と試合はすすみ、錦糸町である男女が乗ってきた。



顔は若いんだけど、推定40歳の女性と、一瞬ヤッサンな「タイガー!」風のセーターの男性。



期待できない選手が交代で入ってきてしまった感いっぱいだ。



乗るやいなや、女性は社内に向かってこういった。



「ねえねえねえ?」



「あたしが座る席がないんだけどぉ?」





そりゃそうだ。



ここは階段に近い密集地帯。



キックオフ直前に自由席に来ても座席があるわけないんだ。



指定席(グリーン車)じゃないんだぜ。



空席問題など起こるわけがない。



「空気読め」コールがどこからか聞こえてきた(ような気分)



そして、女性は続けた。



「いやだいやだいやだ、絶対に座りたい!」



「私が立ったままなんてありえないんだから!」



口をとんがらせてかわいこぶって男性に不満を漏らしている。



落ち着け、途中交代で試合に入れていないだけだ。



最初、おかしなやつが乗ってきたぜ〜、やばいぜ〜、と思って見ないふりをしたが



途中から試合がおもしろくなったので凝視していた。



とにかく動く。



スペースを見つけてはそこに走り込む。



間違いなくプロのサッカー選手だ。



とにかく動いて、落ち着かない。



目を見張るほどの運動量。



そして、次から次へ出るおもしろ台詞。



声を出してのプレーも完璧だ。



女性は肘にバックをかけている。



そのバッグが肘からずり落ちた。




男性が「おい、バッグが落ちたぞ」と言うと



女性は「ねえ?あたし外の景色見てくる!」と笑顔でドア付近のスペースに走り込んだ。



その瞬間、電車は地下に入った…。



女性は「ねえ?景色見たいのに暗くなったんだけど〜ぉ」



空走りを終えた加地アキラのように、自分のポジションまで戻ってきた。



美しすぎる空走りだ。



錦糸町すぎたら地下に入るなんて、吉田主審でも知ってるぜ。



バッグが肘から落ちたことなんて、まったく気にもしていない。(というかシカトよね?)



そして、空走りが終わっても通常と変わらない様子。



勝者のメンタリティーを持っているのではないか…、と思いはじめた。




自分のポジションに戻った女性。



顔をキョロキョロと常に周りのスペースを気にしている。



その首の動きはナカタヒデと同じくらい素早い。



地下に入り馬喰町、新日本橋を通過する。



座席はまだ空かない。



スペースを見つけては空走りしポジションに戻ってくる。



試合は時間を経過していき、終盤を迎えた。




私はすでにこの女性を応援するサポータと化していた。



東京駅でたくさん降りるから、それまでの辛抱だよ!
(今は相手の時間帯だけど、ここを凌げばこっちのリズムだよ!)



応援している選手のゴールを決める姿が見たいように



私はこの女性がどんな状態で座席に座るのか見たくて仕方なくなっていた。



がんばれ!あと一駅だよ!



そして、ついに東京駅。



いっせいにたくさんの人が降りていく。



この車両もたくさんの人が降りていった。



でも、女性の近くの座席はたった一つしか空かなかったんだ。



心配はご無用。



スペースを見つける能力は長けている。



降りる雰囲気の人の前でしっかりとポジションをキープ。



あとはゴールを決めるだけ。



目の前の座席はがら空き。



ゴールキーパーもかわしている。



さあ!あとはシュートさえ打てばゴールだよ!




そして、満面の笑みを浮かべながらシュートを放つ!!!!








ゴォォォォォォォル!!!!











かと思った瞬間…



女性は男性に向かって



「ここ空いたよ!はやく座りなよ!」



なんだと!!!!!!!!!!



ゴールキーパーもかわした状態で、味方にパスをだすのか?



そして、何事もなかったかのように座る男性。(ゴール)








そうだ、ぼくには審判の笛が聞こえなかっただけなんだ。



シュートを打つ前に、オフサイドの旗が先にあがってたんだよね?



それとも、駅に着いたときファールがあってそこで選手交代でもあったのかな?



一人の選手ばかり見ていて、周りの状況が見えていなかったよ。



そうか、東京駅についた時点でロスタイムはすでに消化し、試合は終了していたんだ!



状況が飲み込めない私は、やっと試合が終了していたことに気がついた。



試合終了後、新橋駅までの間、サポータの声に応えるように、ゆっくりとトラックを一周していた。







錦糸町で電車に乗りこんできたとき



「今日は絶対ゴール決めます!」って言ってたのどっちだったっけ?






新橋駅で降りていった二人の伝説的な選手をぼくは見た。



今日、ぼくは誕生日なんだ。



誕生日プレゼントってこれのことかな?